和歌と俳句

紀貫之

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けふまでに われをおもへば 菊の上の 露はちとせの 玉にざりける

白雪は ふりかくせども 千代までに 竹のみどりは かはらざりけり

よそにては 花のたよりと みえながら こころのうちに こころあるものを

この松の なをも根はれば たまほこの 道わかるとも われはたのまむ

ものごしに 花をうちみて 人知れず にびたる心 うつろひぬべし

ふるさとに 咲けるものから さくら花 色はすこしも あれずぞありける

松が枝に 咲きてかかれる 藤なみを いまはまつやま 越すかとぞみる

うちむれて こころさしつつ ゆくみちの おもふおもひを 神や知るらむ

いへぢには いつかゆかむと おもひしを 日頃しふれば 近づきにけり

山の端に 入りなむとおもふ 月みつつ われはとながら あらむとやする

ひさかたの 月のたよりに 来る人は いたらぬところ あらじとぞおもふ

ふたたびや もみぢ葉は散る けふみれば 網代にこそは 落ちはてにけれ

おなじいろの 松と竹とは たらちねの おやこ久しき ためしなりけり

つるのおほく 世をへてみゆる 浜辺こそ ちとせつもれる ところなりけれ

春霞 たちまじりつつ 稲荷山 越ゆるおもひの 人知れぬかな

さかき葉の いろ変りせぬ ももとせの けふことにこそ まつりまつらめ

ゆふたすき かけても人を おもはねど 卯月もけふも まだあかぬかな

わがやどに ふる白雪を 春にまだ 年越えぬまの 花かとぞみる

拾遺集
おもひかね 妹がりゆけば 冬の夜の かはかぜ寒み 千鳥なくなり

かはらずも 見ゆる松かな うべしこそ 久しきことの ためしなりけれ