名残をば 松にかけつつ ももとせの 春のみなとに 咲ける藤浪
まつるとき 咲きもあふかな 卯の花は なほうぢがみの 花にぞありける
草も木も しげき春べは 来る人の たちよるかげの たよりなりけり
としごとに きつつこゑする ほととぎす はなたちばばや つまにはあるらむ
しらくもの ながるるとのみ 見えつるは 落ち来る滝の つねにぞありける
秋の野の ちぐさのはなは をみなへし まじりておれる にしきなりけり
くさもきもみな もみぢすれども 照る月の 山の端はよに かはらざりけり
菊の花 ひぢてながるる 水にさへ 波のしわなき やどにざりける
かはのせに なびくあしたづ おのが世を 波とともにや 君によすらむ
ちよもたる 竹のおひたる やどなれば ちぐさのはなは ものならなくに
としたてば 花こふべくも あらなくに 春いまさらに 雪のふるらむ
くれぬとて なかずなりぬる うぐひすの こゑのうちにや 春のへぬらむ
つらきひと 忘れなむとて はらふれば みそぐかひなく こひぞまされる
秋萩に みだるるたまは なく鹿の こゑよりおつる 涙なりけり
野辺みれば 若菜つみけり うへしこそ 垣根の草も 春めきにけれ
春たちて 子の日になれば うちむれて いづれのひとか 野辺にこざらむ
山わけて おちくる滝を しらくもの たなびくとのみ おどろかれつつ
雪とのみ あやまたれつつ 梅の花 くれなゐにさへ かよひけるかな
ことさとも みな春なれど わがやどの 桜にまさる 花やなからむ
しのぶれど おもひかねては 人知れず こころひとつに みえぬべきかな