さくら花 ちとせ見るとも うぐひすも われも飽くとき あらじとぞ思ふ
散り方の 花みるときは 冬ならぬ わが衣手に 雪ぞ降りける
春のため あだし心の 誰なれば 松が枝にしも かかる藤波
月影に 道まどはして わがやどに 久しくみえぬ 人もみえなむ
来ぬ人を 月になさばや うばたまの 夜ごとにわれは 影をだに見む
雨ふらむ 夜ぞおもほゆる ひさかたの 月にだにこぬ ひとの心を
山里に つくれるやどは 近けれど くもゐとのみぞ なりぬべらなる
おく霜の こころやわける 菊の花 うつろふ色の おのがじしなる
たぎつ瀬も 憂きことあれや わが袖の 涙ににつつ 落つるしらたま
よとともに とりの網はる やどなれば みはかからむと 来る人もなし
空にのみ 見れどもあかぬ 月影の 水底にさへ またもあるかな
うきてゆく 紅葉のいろの 濃きからに 川さへ深く みえわたるかな
雪ふれば 疎きものなく 草も木も ひとつゆかりに なりぬべらなり
いかでひと 名づけそめけむ 降る雪は 花とのみこそ 散りまがひけれ
見えねども 忘れしものを 梅の花 けさは雪のみ ふりかかりつつ
くれなゐの 時雨なればや いそのかみ ふるたびごとに 野辺のそむらむ
白雲の たなびきわたる あしひきの 山のたなはし われもわたらむ
ちはやふる 神たちませよ 君がため 摘む春日野の 若菜なりけり
ゆくすゑも しづかに見べき 花なれと えしも見すぎぬ 桜なりけり
ほととぎす 来つつこたかく なくこゑは ちよの皐月の しるべなりけり