をしむにも心なるべきたもとさへ花の名残はとまらざるらむ
とどめおきし移り香ならぬ橘にまづこひらるるほととぎすかな
橘の花ちる風にあらねども吹くにはかをるあやめぐさかな
五月闇くらぶの山のほととぎすほのかなるねににる物ぞなき
すぎぬるを恨みは果てじほととぎすなきゆくかたに人もまつらむ
そま河やうきねになるる筏士は夏の暮こそすずしかるらめ
夏の日のいる山みちをしるべにて松のこずゑに秋風ぞふく
おしなべてかはる色をばおきながら秋を知らする荻のうはかぜ
うらみをやたちそへつらむ七夕の明くれば帰る雲の衣に
風ふけば枝もとををにおく露の散るさへ惜しき秋萩の花
をみなへし露ぞこぼるるおきふしに契りそめてし風や色なる
露ふかき萩の下葉に月さえてをじかなくなり秋の山ざと
月かげを葎のかどにさしそへて秋こそ来たれとふ人はなし
新勅撰集・秋
天の原おもへばかはる色もなし秋こそ月のひかりなりけれ
秋の夜のかがみと見ゆる月かげは昔の空をうつすなりけり
浮雲のはるればくもる涙かな月見るままのものがなしさに
露の身はかりのやどりに消えぬとも今宵の月のかげは忘れじ