和歌と俳句

藤原定家

初学百首

>堀河院百首

かすが山谷のふぢなみたちかへり花さくはるにあふよしもがな

おもひのみおほはらのべに年へぬるまつことかなへ神のしるしに

流れ来て近づく水にしるきかなまづ開くべきむねのはちすば

うき世にはうれへの雲のしげければ人の心につきぞかくるる

定めける佛の道をしるべにて今は憂き世にまどはずもがな

身にしめてかきおく法の花の色の深さあささは知る人もなし

きき果つる花の御法の末にこそ定めおきける身とも知りぬれ

ながめてもさだめなき世の悲しきは時雨にくもるありあけのそら

水の上に思ひなすこそはかなけれやがて消ゆるをあはと見ながら

千載集・離別
別れても心へだつなたびごろもいくへかさなる山路なりとも

つくづくと寝覚めて聞けば浪まくらまだ小夜ふかき松風の聲

行きかへる夢路を頼むよひごとにいやとほざかる都かなしも

立つ度にこころぼそしや藻鹽やく烟はたびのいほりならねど

行きかへり旅の空にはねをぞ鳴く雲井の雁をよそに見しかど

旅の空をばすて山の月かげよ住み馴れてだになぐさみやせし

君が代はみねにあさひのさしながら照らすひかりのかずをかぞへよ

わが君の御世とこたへむ世の中に千歳やなにと人もたづねば

神山に幾世へぬらむ榊葉のひさしくしめをゆひかけてける

すが枕おもはむひとはかくもあらじたがさねぬよに塵つもるらむ

みかさ山いかに尋ねむ白雪のふりにしあとは絶え果てにけり