海士小舟ややたづさはる芦の葉に心もとまる今朝のゆきかな
むしあけの松吹くかぜや寒からむ冬の夜深くちどり鳴くなり
水鳥のうきねよ何のちぎりにてこほりとしもと結びおきけむ
天の戸のまだあけやらぬ月影に聞くもさやけきあかぼしの聲
雪深きかた野の道をふみ分けてたえぬ日次のみかりをぞする
炭竈のやくとつま木をこりつめて烟にむせぶ小野のさとびと
見るままにやがてきえ行く埋火のはかなきよをも頼みけるかな
あくるより暮れぬとのみぞ惜まるるけふは今年の限と思へば
逢ふまでの契りならずはいかがせむかばかり人を思ひそめても
あはれとも人に知らるる思ひだに積もるはいかがあぢきなき世を
さよ衣うらみを人に重ねつつ逢はでや世々を隔てはつべき
むすびてもなかなかぬるる袂かなあふくま川の深きおもひに
しをりする端山がみねの露けきも帰るに道は迷はぬものを
逢ひ見ても逢はでもおなじ歎きにて誓ひしことは変りはてぬる
秋萩のした葉を結ぶ草まくら色づくそでの露をまがへよ
あさましや浅間の嶽に立つ烟たえぬおもひを知るひともなし
あぢきなく歎く命も絶えぬべし忘られはつる長き契りに
行く末を思ふも悲し心からこの世ひとつの恨みならねば