禽獣とゐて魂なごむ寒日和
襟巻や畜類に似て人の耳
枯菊の香を愛しともむなしとも
枯菊を刈らんと思ひつ ゝ今日も
山茶花の日和に翳のあるごとく
煮凝りの魚の眼玉も喰はれけり
人影す堆の初霜あたたかに
雪めがね柩車音なく過ぎゆけり
雪達磨とけゆく魂のなかりけり
霜の屋根見え山ふかく大厦あり
着ぶくれて老いしと思ふ若しとも
冬の蝶睦む影なくしづみけり
冬の蝿やがてはとづる眼もて追ふ
熱湯をむさぼりこぼすたんぽかな
白き息ゆたかに朝の言葉あり
貧の香のきこえて煮ゆる根深かな
木の葉髪せめて眸は明らかに
木の葉髪一生を賭けしなにもなし
葉牡丹の渦一本にあふれたる
春隣る空かたぶけて牡丹雪
跫音の老いしとおもふ夜番かな
ひよどりに照る葉のしげき冬つばき