富安風生
寒凪や礁に乾く蜑草履
廃れたる生簀の眼窩冬礁
傘壽経て米壽へ縷々と径の冬
着ぶくれて文字一つにも好き嫌ひ
掌にのせ茶の花を仰向かす
顔見世の大番付の端役かな
身をもって枯枝の影の苦しめる
極月といふものの立ち塞がれる
古きものに古きよろしさ年忘れ
柔かに褥敷かせる落葉かな
青桐の幹を流涕冬の雨
まだ生きてゐし盛装の冬の虻
凍蝶の縋りし石の動ぎしは
凍蝶をさます物音つひになし
扶け起す手の冷たさよ風邪ひくな
かがなべて幾日残らぬ年惜しむ
何かしら遠し遠しと年暮るる
年歩むその大いなるうしろ影