冬鵯の悲鳴透りて藪枯るる
金屏のかげにうかがふ隙間風
紺天へむしりては投げ冬の雲
突堤をうちて寒濤あらがへる
寒鴉瓦礫を歩き飢ゑにけり
寒菊の臙脂は海の紺に勝つ
冬ざるる顰を深く裏浅間
中川女大原女よりもしぐれさび
風紋におきて千鳥の迹くはし
一輪を加へて二輪冬至梅
痩肩に負ふものに堪へ年暮るる
わが伏屋吹つとばさんず空つ風
小つくばひ全身濡れて春を待つ
寒夜わが独座うかがふ何か居り
人の世をへだつ風除したりけり
門松の荷に菰着せて舫ひ舟
冬草や黙々たりし父の愛
冬の星らんらんたるを怖れけり
年忘れ忘れてならぬ恩ひとつ
年忘れ最も老を忘れけり
詠み流す歳晩の句の余情かな
手つなぎて草木蟲魚春を待つ
だぶだぶと老もすすりぬ晦日蕎麦