和歌と俳句

高浜虚子

ゆるぎなき柱の下の雑煮かな

御佛に尼が掛け居るかざりかな

やり羽子や油のやうな京言葉

東山静かに羽子の舞落ちぬ

掃きぞめの帚にくせもなかりけり

子供等に雙六まけて老の春

初鶏や動きそめたる山かづら

たてかけてあたりものなき破魔矢かな

梅を持ち破魔矢を持ちて往来かな

よく笑ふ女禮者や草の庵

羽子をつく娘と孫のおない同志

鎌倉は古き都や注連の内

人々を率てちらばりて初詣

つく羽子の静に高し誰やらん

描初の壺に仲秋の句を題す

子の日する昔の人のあらまほし

石段に一歩をかけぬ初詣

餅花の賽は鯛より大きけれ

巫女舞をすかせ給ひて神の春

腰まげて後ろ手に杖老の春

大濤にをどり現れ初日の出

神近き大提灯や初詣

仰ぎて嗽ひ伏して手洗ひ初詣

石段の伸び行くがごと初詣

神慮いま鳩をたゝしむ初詣

男山仰ぎて受くる破魔矢かな

大空に羽子の白妙とどまれり

つく羽子の同じ高さに姉妹

からからと初湯の桶をならしつつ

初島田結ひ汚なき割烹着

薮入の田舎の月の明るさよ