和歌と俳句

高浜虚子

物売も佇む人も神の春

人に恥ぢ神には恥ぢず初詣

神は唯みそなはすのみ初詣

推し量る神慮かしこし初詣

七種に更に嫁菜を加へけり

歌留多とる皆美しく負けまじく

双六に負けおとなしく美しく

初句会浮世話をするよりも

粛々と群聚はすゝむ初詣

褄とりて独り静に羽子をつく

追羽子のいづれも上手姉妹

床の花已に古びや松の内

初詣神慮は測り難けれど

願ぎ事はもとより一つ初詣

薮入や母にいはねばならぬこと

初乗や油井の渚を駒竝めて

羽子板を犬咥へ来し芝生かな

福寿草遺産といふは蔵書のみ

松過ぎの又も光陰矢の如し

万才の佇み見るは紙芝居

まろびたる娘より転がる手毬かな

萬歳のうしろ姿も恵方道

初凪や大きな浪のときに来る

口あけて腹の底まで初笑

道のべに延命地蔵古稀の春

片づけて福寿草のみ置かれあり

初夢の唯空白を存したり