和歌と俳句

高浜虚子

晨鐘を今打ち出だす去年今年

乱雑の中に秩序や去年今年

元日や炬燵の間にも客招じ

いのち守る寒燈一つ去年今年

元日や句は須く大らかに

元日や深く心に思ふこと

例の如く草田男年賀二日夜

松ケ枝にかゝりて太き初日かな

老の春写真をくれと人いふも

ぶらぶらと恵方ともなく歩きけり

起り来る事に備へて去年今年

移り住む田舎の地図や年始状

赫奕として初日あり草の庵

耄碌と人に言はせて老の春

忘るゝが故に健康老の春

鎌倉の此処に住み古り初日の出

三ケ日昔恋しいと遊びけり

貧乏の昔恋しや三ケ日

祖母の世の裏打ちしたる絵双六

初空や東西南北其下に

初空を仰ぎ佇む個人我

傷一つ翳一つなき初御空

古を恋ひ泣く老や屠蘇の酔

推敲を重ぬる一句去年今年

元日や午後のよき日が西窓に

初夢のうきはしとかや渡りゆく

吉兆を呉れぬ破魔矢を贈らばや