和歌と俳句

高浜虚子

隠家をなほたづね来る賀客かな

我子早やいろはかるたを取るやうに

幼きと遊ぶ十六むさしかな

座を挙げて恋ほのめくや歌かるた

遣羽子の二人隠るる大木かな

乱好む人誰々ぞ弓始

松の内鼓の會のあり處

一学系を率ゐて食ふ雑煮かな

起り来るところのものを松の内

初空や大悪人虚子の頭上に

禮者西門に入る主人東籬に在り

庖丁の痕一つ俎はじめかな

明日死ぬる命めでたし小豆粥

人形まだ生きて動かず傀儡師

初冨士や双親草の庵に在り

初冨士や草庵を出て十歩なる

初冨士を見て嬉しさや君を訪ふ

浪音の由比ケ濱より初電車

初暦頼みもかけず掛けにけり

掃きぞめの帚や土になれ始む

謹で君が遺稿を讀みはじむ