和歌と俳句

高橋淡路女

元日や枯草の鳴る風の音

縫初のめでたき女針男針かな

織初や金絲銀絲の杼をとばす

初日記子は書くことのなしといふ

今朝の春あめつちみみつ神慮かな

元日の日のさしにけり我が家にも

独り身や三日の朝の小買物

閉居して去年今年ともなかりけり

置きただす釜のすわりや初竃

古妻や口紅刷ける着衣始

初髪にたりのの稲の小かんざし

女礼まづ妹の来りたる

しののめの窓の燈を消すかな

寶恵籠や坐りこぼるゝ褄のはし

七種やほのぼのしらむ厨窓

古褄や正月髪につげの櫛

さとかをる伽羅の油や梳き始

松の内こゝろおきなき朝寝かな

屠蘇の酔ひ男の顔のうるはしき

敷妙の古き枕や宝船

句を書いて多き余白や初日記

舞初や習ひはじめの御所車

犬つれて松過ぎの人歩きけり