日野草城
いそがしき妻も眠りぬ去年今年
既に昭和二十七年のしづかな闇
初咳といへばめでたくきこえけり
福寿草平均寿命延びにけり
半盃の酒を嘗めけり年を祝ぎ
元日の新しい顔で友ら来る
元日やはげしき風もいさぎよき
初夢に見たり返らぬ日のことを
初春や眼鏡のままにうとうとと
風邪だけが治りて年を越しにけり
呼び寄せて仰ぐ春着の子の背丈
誰が妻とならむとすらむ春着の子
初空に日かげ満ちたりまさやかに
若かりし妻若かりず初鏡
初春や子が買ひくれしオルゴール
鎌倉の尾ノ道の鐘去年今年
おのづから老いて足らへり福寿草
初鏡娘のあとに妻坐る
仰向けの口中へ屠蘇たらさるる