和歌と俳句

水原秋櫻子

鶯や肩より低き櫟原

群山にめる眉は大菩薩

花の上に雪まばゆくて富士ちかし

菫咲き崖逆落す径もあり

野いばらの芽ぐむに袖をとらへらる

道尽きてぜんまいの巌ぞ壁なせる

ぜんまいに相模湖の入江ひとつ見ゆ

瑠璃の朝牡丹が壺にひらきける

森の上に幟の鯉の泳ぎいづ

翅伏せ蝶がおほへり花苺

灰皿の曳けるけむりや若楓

些事ひとつ消えてはうまるセルの頃

柿若葉丘の低きをかゞやかす

柿若葉丘の南は田もまぶし

柿若葉こぞれる今日は幟立つ

見上げてはくねれる枝の柿若葉

合掌の尼並み立てり若楓

厨子の絵のえわかずくらし若楓

天蓋の鳳は薫風の空のもの

伎楽面さゞめき笑ひ初夏薄暮

追儺面赭髪に黴の香を思ふ

茶どころは咲く午後の簷の影

春蝉や庭に育つる焙炉の火

茶つくりの今日をはじめの火の浄さ

掃き入れて新茶のかをり箕にあふる