和歌と俳句

服部嵐雪

こころには松杉ばかりほととぎす

志賀越とありし被や菊の花

七夕賀茂川わたる牛車

痩る身をさするに似たり秋の風

水音も鮎さびけりな山里は

あぢさゐを五器に盛ばや草枕

夢によく似たる夢哉墓参り

銭ほしとよむ人ゆかしとしのくれ

初空や烏をのするうしの鞍

目前に杖つく鷺や柳かげ

きく添ふやまた重箱に鮭の魚

土嘗てはにかむ顔がぼたん哉

初菊やほじろの頬の白き程

穂に出て世の中は田も疇もなし

白雲の竜をつつむや梅の花

名月や柳の枝を空へ吹く

山吹の移りて黄なる泉さへ

老ひとつこれを荷にして夏衣

河骨の花一時もさるほどに

雪は申さず先むらさきのつくばかな

川骨や撥に凋る夜半楽

一葉散る咄ひとはちる風の上

霜の菊杖がなければおきふしも

むめ一輪一りんほどのあたたかさ

はなを出て松へしみこむ霞かな