梅雨波や調度動かぬ螺鈿の色
梅雨波のくりかへし故人を忘れゆく
母を褒められうなづきし頃よ水すまし
ひとを訪はずば自己なき男月見草
海の端を汲むかにみどりの大気吸ふ
帰燕の数赤児の頭撫剃りに
花柘榴情熱の身を絶えず洗ふ
杉菜の下無為やはらかき真黒土
鉢巻禿頭笑ふは日のみ麦を刈る
寺建ちていまだ硯は黴びてをり
燈下豊か翅の濡れたる蠅到り
夜空から「ペトロの左手」へ甲虫
「我が毒」ひとが薄めて名薬梅雨永し
枯向日葵齢ゆゑに人を信ぜんや
炎天歩む吾は「残留の歌声」ぞ
星合や遊びの迹の砂の塔
七夕や手休み妻を夕写真
三年前は往時や盆僧あまり若し
アパートの鉄梯盆僧ただ登る
南無母よ芭蕉の葉筒雨吹き入る
夏潮切々名所の断崖見下ろしつつ
掃きしが如き野路にとなる木落し文
飛燕の下横伸草の厚き谷
岩壁いつくし群燕丁々貼りとまり
燕の歌は燕の歌の上飛びつつ