氷ゐておき中河のたえしよりかよひしにほのあとを見ぬかな
瀬だえしてみなわわかるる涙川底もあらはに氷とぢつつ
冬の夜の長き限りはしられにきねなくにあくる袖のつららに
袖のうへ渡るを川をとぢはてて空吹く風もこほる月かげ
氷のみむすぶさ山のいけ水にみくりもはるのくるをまつらし
おいらくは雪のうちにぞ思ひしるとふ人もなく行く人もなし
いたづらに松の雪こそ積るらめ我が踏み分けしあけぼのの山
いそのかみふる野は雪の名なりけりつもる日数を空に任せて
夢かとも里の名のみや残るらむ雪もあとなき小野の浅茅生
たればかり山路をわけてとひくらむまだ夜は深き雪の景色に
くちなしの色やちしほこひそめし下のおもひやいはではてなむ
みずくきの人づてならぬ跡にだにおもふこころはかきもながさず
うへしげるかきねがくれの小笹原しられぬ恋はうきふしもなし
白露のおくとはなげくとばかりも夢のただちやことかよふらむ
こと浦にこるやしほ木の名に立てよ燃えて隠れぬ烟なりとも
よりかけてまだ手に馴れぬ玉の緒の片糸ながら絶えや果てなむ
夜な夜なの月も涙にくもりにきかげだに見せぬ人を恋ふとて
名取川こころのとはむ言の葉もしらぬ逢ふ瀬は渡りかねつつ
あまの苅るよそのみるめをうらみにて夜は袂にかかる波かは
我が恋よ何にかかれるいのちとてあはぬ月日の空に過ぐらむ