ぬきもあへずこぼるる玉の緒はたへぬ五月雨そむる軒の菖蒲に
五月雨の日かずも雲もかさなれば見らく少きよもの山の端
五月雨のくものまぎれに中たえてつづきも見えぬ山のかけ橋
みわの山五月の空のひまなきにひばらの聲ぞあめをそふなる
玉鉾やかよふただちも川と見て渡らぬなかのさみだれのころ
暮れ難き春の菅の根ひきかへて明くる夜おそき秋は来にけり
秋来ぬと萩のはかぜはなのるなり人こそとはねたそがれの空
風のおとのなほ色まさるゆふべかなことしはしらぬ秋の心を
昨日今日あさけばかりの秋かぜにさそはれわたる木々の白露
手馴れつる閨のあふぎをおきしよりとこも枕も露こぼれつつ
時わかずそらゆく月のあきの夜をいかにちぎりて光そふらむ
した荻もおきふしまちの月の色に身を吹きしをるとこの秋風
秋の月たまきはるよのななそぢにあまりてもものは今ぞ悲しき
むかし思ふ草にやつるる軒ばよりありしながらの秋の夜の月
長きよの月をたもとに宿しつつ忘れぬことをたれにかたらむ
山姫の濃きもうすきもなぞへなく一つに染めぬ四方の紅葉ば
山人のうたひてかへるゆふべより錦をいそぐみねのもみぢ葉
新勅撰集・秋
しぐれつつ袖だにほさぬ秋の日にさこそ御室の山は染めらめ
龍田山かみのみけしに手向くとや暮れ行く秋の錦おるらむ
今はとてもみぢにかぎる秋の色をさぞともなしにはらふこがらし