知らざりき山よりたかきよはひまで春の霞の立つを見むとは
みよし野は春のかすみのたちどにて消えぬにきゆる峯の白雪
いつしかと都の野邊は霞みつつ若菜つむべき春はきにけり
たづぬともあひ見むものか春来ては深きかすみの浦の初しま
幾春の霞の下にうづもれておどろの道のあとをとふらむ
櫻ばな待ち出づる春のうちをだにこふる日多くなど匂ふらむ
尋ね見る花の處もかはりけり身はいたづらのながめせしまに
雲のうへ近きまもりに立ちなれし御階の花のかげぞこひしき
庭のおもは柳さくらをこきまぜむ春のにしきのかずならずとも
かずまさる我があらたまの年ふればありしよりけに惜しき春かな
雪とふる花こそぬさのかどでしてしたふ跡なき春のかへるさ
にほふより春は暮れゆく山吹の花こそ花のなかにつらけれ
散る花の雲の林もあれはてて今はいくかの春も残らじ
忘られぬやよひの空のうらみより春のわかれぞ秋にまされる
たれしかもはつねきくらむ時鳥またぬ山路にこころつくさで
時鳥おのが五月をつれもなくなほこゑをしむとしもありけり
山かづらあけ行く空にほととぎすいづる初音も峯わかるなり
あぢきなき遠方人のほととぎすそれともわかぬ野邊の夕ぐれ
袖の香の花にやどかれほととぎす今もこひしき昔とおもはば