なほしばし雲居る谷を立ちかへりみやこの月に出づる山みち
松風のおとにすみけむ山人のもとのこころはなほやしたはむ
月にふく嵐ばかりやむかへけむみなみの山の霜のふるみち
谷ごしのましばの軒の夕烟よそめばかりは住み憂からじや
とこなるる山下露のおきふしに袖のしづくは都にもにず
ももしきのとのへを出づる宵々は待たぬにむかふ山の端の月
吹きさらふもみぢの上の霧はれて嶺たしかなるあらし山かな
津の国のこやさく花と今もみるいこまの山の雪のむらぎえ
雲の行くかたたのおきやしぐるらむややかげしめる蜑の漁火
神風やみもすそ川に祈りおきしこころの底やにごらざりけむ
そのかみの我がかねごとにかけざりし身の程過ぐる老いの波かな
待ちえつるふるえの藤の春の日にこずゑの花を並べてぞ見る
はからずよ世にありあけの月に出でてふたたび急ぐ鳥のはつこゑ
たらちねの及ばずとほき跡過ぎて道をきはむるわかのうら人
君を祈る今日の尊とさかくしこそ治まれる世は楽しきをつめ
霜雪のしろ髪まではつかへきぬ君の八千代をいはひおくとて
代々ふとも変らぬ竹のふしておもひおきてぞ祈るきみの齢を
君が代をいくよろづよと數へても何にたとへむあかぬこころは
久にふるみむろの山のさかき葉ぞ月日はゆけど色もかはらぬ