和歌と俳句

後撰和歌集

よみ人しらず
人しれず君につけてしわが袖のけさしもとけずこほるなるべし

よみ人しらず
かきくらしふりしけ白玉をしげる庭とも人の見るべく

よみ人しらず
神な月しぐるる時ぞみ吉野の山のみゆきもふりはじめける

よみ人しらず
けさの嵐寒くもあるかなあしひきの山かきくもり雪ぞふるらし

よみ人しらず
黒髪の白くなりゆく身にしあればまつはつ雪をあはれとぞみる

よみ人しらず
ふるみ山の里のわびしきはきてたはやすくとふ人ぞなき

よみ人しらず
ちはやふる神な月こそかなしけれわが身時雨にふりぬと思へば

よみ人しらず
しら山ふりぬればあとたえて今は越路に人もかよはず

貫之
ふりそめて友まつ雪はうばたまのわが黒髪のかはるなりけり

返し 兼輔朝臣
黒髪の色ふりかふる白雪のまちいつる友はうとくぞ有りける

貫之
黒髪と雪とのなかのうき見ればともかがみをもつらしとぞ思ふ

返し 兼輔朝臣
年ごとに白髪の數をますかがみ見るにぞ雪の友はしりける

よみ人しらず
年ふれど色もかはらぬ松が枝にかかれる雪を花とこそ見れ

よみ人しらず
霜枯れの枝となわびそ白雪のきえぬかぎりは花とこそみれ

よみ人しらず
こほりこそ今はすらしもみ吉野の山の滝つ瀬こゑもきこえず

よみ人しらず
夜をさむみ寝ざめてきけばをしぞなく払ひもあへず霜やおくらむ

藤原かげもと
かつ消えて空にみだるるあはゆきは物思ふ人の心なりけり

よみ人しらず
白雪のふりはへてこそとはざらめとくるたよりをすぐさざらなむ

よみ人しらず
思ひつつ寝なくにあくる冬の夜の袖の氷はとけずもあるかな

よみ人しらず
荒玉の年を渡りてあるかうへにふりつむ雪のたえぬしら山