むかし おとこ つれなかりける人のもとに
いえばえにいはねば胸にさはがれて心ひとつに歎くころ哉
おもなくて言へるなるべし
むかし 心にもあらで絶えたる人のもとに
玉の緒をあはおによりて結べれば絶えての後も逢はむとぞ思
昔 忘れぬるなめり と問ひ言しける女のもとに
谷せばみ峰まで延へる玉かづら絶えむと人にわが思はなくに
昔 おとこ 色好みなりける女に逢へりけり うしろめたくや思けむ
我ならで下紐とくな朝顔の夕かげ待たぬ花にはありとも
返し
ふたりして結びし紐をひとりしてあひ見るまでは解かじとぞ思
むかし 紀の有常がりいきたるに 歩きてをそく来けるに よみてやりける
君により思ならひぬ世中の人はこれをや恋といふらむ
返し
ならはねば世の人ごとに何をかも恋とはいふと問ひし我しも