横井也有
寺町や猫と涅槃の恋無常
大磯も虎はむかしに猫の恋
花に啼絵になく鳥や涅槃像
青海苔にさく白魚のさかり哉
万歳の畑うつ頃や桃の花
桃のさく頃や湯婆にわすれ水
永ひ日を幕にた ゝむやさくら狩
開帳の庭にほしがるさくらかな
蝶々や花盗人をつけてゆく
うらみ寝の猫やおもひの煙出し
をよぐ田も飛ぶ田も有て 蛙哉
笠着れば一重へだ ゝる雲雀哉
こゝ迄の下駄の跡ありんめの花
梅の散るあたりや炭の明俵
うぐひすや耳に千鳥の凍どけぬ
鶯や土へは下りぬ身だしなみ
枝はいと糸は枝なるやなぎ哉
池水に蛙の波やおぼろ月
翌日の空どちらへならむ朧月