和歌と俳句

横井也有

十一

寺町や猫と涅槃の恋無常

大磯も虎はむかしに猫の恋

花に啼絵になく鳥や涅槃像

青海苔にさく白魚のさかり哉

万歳の畑うつ頃や桃の花

のさく頃や湯婆にわすれ水

永ひ日を幕にた ゝむやさくら狩

開帳の庭にほしがるさくらかな

蝶々や花盗人をつけてゆく

うらみ寝の猫やおもひの煙出し

をよぐ田も飛ぶ田も有て

笠着れば一重へだ ゝる雲雀

こゝ迄の下駄の跡ありんめの花

梅の散るあたりや炭の明俵

うぐひすや耳に千鳥の凍どけぬ

や土へは下りぬ身だしなみ

枝はいと糸は枝なるやなぎ

池水に蛙の波やおぼろ月

翌日の空どちらへならむ朧月