和歌と俳句

横井也有

十一

菜の花や揚ゆく駕の片簾

売捨に出るやきのふの田螺

涅槃会やされども雁は生別れ

蛤の茶屋も吐べき潮干

名を呼べば口紅はげて桃の花

ひなの日や蔵から都遷しあり

一本にかたまる人やおそ桜

袷縫ふまどに盛やおそ桜

山吹やとへばこたへの比丘尼寺

実のために枝曲られて梨子の花

折る人に秋の欲なし梨子の花

今植し桜や世々の春の雲

香久山に赤ひもの干すつ ゝじ

躑躅さく谷やさくらのちり所

ゆく春や一寸先は木下やみ

行春や送る門には松もなし