和歌と俳句

松尾芭蕉

貴さや雪降ぬ日も蓑と笠

納豆きる音しばしまて鉢叩

人に家をかはせて我は年忘れ

たふとがる涙やそめてちる紅葉

百歳の気色を庭の落葉

作りなす庭をいさむるしぐれかな

白く洗ひたてたるさむさ哉

折々に伊吹をみては冬ごもり

凩に匂ひやつけし帰花

水仙や白き障子のとも移り

其にほひ桃より白し水仙花

京にあきて此木がらしや冬住ゐ

雪をまつ上戸の皃やいなびかり

木枯に岩吹とがる杉間かな

夜着ひとつ祈出して旅寝かな

宿かりて名を名乗らするしぐれ

馬かたはしらじしぐれの大井川

都いでて神も旅の日数哉

ともかくもならでや雪のかれお花

留主のまに荒れたる神の落葉哉

葛の葉の面見せけり今朝の

鴈さはぐ鳥羽の田づらや寒の雨

魚鳥の心はしらず年わすれ

けふばかり人も年よれ初時雨

口切に境の庭ぞなつかしき