和歌と俳句

高井几董

炉びらきや紅裏見ゆる老のさび

口きりや此寒空のかきつばた

わが庵ににほひあまるや冬牡丹

はつ霜や野わたしに乗馬の息

舟慕ふ淀野の犬やかれ尾花

石寒し四十七士が霜ばしら

丹頂の頭巾似あはむ霜の鶴

眦に比叡のはなれぬ かな

明ぼのやあかねの中の冬木立

冬木だち月骨髄に入夜哉

鴬のうしろ影見し冬至

鰒喰し犬狂ひ臥かれ野かな

大仏を見かけて遠き冬野かな

土までも枯てかなしき冬野哉

こがらしや三ツに裂たるちくま川

凩にあらそふごとし鐘の声

顔見せや北斗に競ふ炭だはら

かほみせや矢倉に起る霜の声

河豚好む家や猫迄ふぐと汁

活て居るものにて寒き海鼠

痩葱にさかな切込磯家かな

やすき瀬や冬川わたる鶴の脛

馳折をしばらくおろす神楽

夜神楽や水涕拭ふ舞の袖

初雪のしるしのさほや艸の茎