和歌と俳句

亞浪
武蔵野の此処に水凝り鴨呼ばふ

亞浪
日は遠くなり捲き返す鴨の群

亞浪
わが影の水に沈めば鴨らたつ

亞浪
藻も枯れてあるがままなる鴨の水

秋櫻子
濁みごゑの親しき鴨や今朝下りし

秋櫻子
鴨下りて鳴けばうなづく枯蓮

秋櫻子
鴨の水あさし紺碧にかゞやけど

鴨渡る気色に夜を徹しけり 石鼎

爽雨
裏富士の夕べ傾き鴨の湖

爽雨
近づくと見えし湖鴨昃り去る

秋櫻子
鴨高く翔けて立山をよぎりたり

草田男
遠ネオン読めて意味なし鴨も旅寝

草田男
夜鴨の声はかなしむばかり人には悔

多佳子
雪明りこゑももらさず餌場の鴨

多佳子
はぐれ鴨加はりすぐに夜の鴨

青畝
石山や夕鴨明りほのぼのと

多佳子
湖北に寝てなほ北空の鴨のこゑ

波郷
浮寝鴨若きらは水走るなり

青畝
おびえ翔つ鴨あり羽音天に満つ

青畝
初鴨のつぎつぎ陣を加へけり

青畝
みちのくを幾群となく鴨つづく

林火
鴨群るるさみしき鴨をまた加へ

悌二郎
岸の一羽羽うつにさめず浮寝鴨

悌二郎
身じろぎもせず群遠く一羽鴨

青畝
太き尻ざぶんと鴨の降りにけり

誓子
飛び立つて十字絣の海の鴨

誓子
大景の中飛ぶ鴨の粉微塵

誓子
船過ぎて鴨の円陣あとかたなし

誓子
佐鳴湖に下りゐて鴨は畝をなす

誓子
誰も見ず明石潮路に鴨一羽

悌二郎
憂ひなき浮寝鴨にはこよなき日

悌二郎
思ひ寝と見しが動かぬ鴨は病む

悌二郎
剽軽な小鴨つられて羽搏ち翔つ

秋櫻子
沖の鴨一夜に浦をうづめけり

爽雨
鴨来ると湖畔のみ堂ほとけ満つ

爽雨
鴨見つつ湖にも荒磯ありて行く

青畝
鴨来しと余呉湖の鴉さわぎけり

青畝
岸の鴨暮れて尻ふりはじめけり

青畝
番鴨美醜かかはりなかりけり

林火
明暗の波の綺羅また鴨の数