原 石鼎
牛苺この透く紅のうまさうな
この耳に河鹿蜩らちもなし
水底に小石見てゐる人涼し
夕立のしかけてはれぬ谷のさま
谷底へ玉虫翅をひろげとぶ
天柱巌うす紫の涼しけれ
夏山のここにわれある心かな
納涼や水の都の灯しごろ
納涼や夜の松江の橋いくつ
夕づつやもやひそめたる涼み船
夕立来る雨あと湖に満るかな
日覆はづす夕立に湖をあふつ風
夕立や湖辺りの船皆ゆれて
湖の藻の浮き流れゐる夕立かな
夕立止んで一変りしぬ湖の色
夕立してかほどにぬれし柳かな
雨粒の湖に玻璃戸に夕立つかな
夕立に風添うて居る湖面かな
夕立来て湖に河童もゐずなりぬ
鳶多くて琵琶湖に似たり夕立晴
夕立見て東京へ発つ湖畔かな