日中の影落したる梧桐かな
蝙蝠や草に埋るる寺の塀
夕立や浮草を走る水の玉
炎天を怖れず見るや巨樹の下
炎帝の下さはやかに蛭泳ぐ
逞しき泥の腓や蛭吸へり
夜の国へかくて日暮るる水馬
帆影来て浮葉によるや水馬
白雲や腹かへし遊ぶ水馬
水馬去りしを知らず田草取
合歓深くさし入る月や水馬
梅干すやおどろの髪に白手拭
石の梅漬けて日くれぬ四囲の山
蠅ねぶる牛の涙や午寝時
午寝人団扇はなさぬ畳かな
海鳥の群ら立つ下や午寝舸夫
午寝人の蓋顱映るや床柱
午寝さめし眼にをかしさや棕櫚の鬚
母すでに昼寝さめたる流しもと
しろじろと古き浴衣やひとり者
帷子や嫉妬の群に居て驕し
衣とるや壁へ衝つ張る衣紋掛
呂羽織をかけし重さや衣紋かけ
衣紋掛の朱漆を這ふ小蜘蛛かな
芥子散るや壁にかたむく衣紋掛
そこはかと暮るる日ありぬ衣紋掛