山の色釣り上げし鮎に動くかな
夜振の火見て居る谷の草間かな
生節を又ことづかる郵便夫
山影のひたる堰あり青芒
水上にはや谷くれぬ青芒
蛇踏みし心いつまで青芒
杣が灯す柱の影や青芒
夜々あやし葎の月にあそぶ我は
杣がかやの紐にな恋ひそ物の蔓
山風の蚊帳吹きあぐるあはれさよ
山の娘の風邪にこもれる蚊帳かな
奥山に売られて古りし蚊帳かな
蚊帳つりてさみしき杣が竈かな
老杣のあぐらにくらき蚊遣かな
山家人したたかくべる蚊遣かな
崖錆にいたみし軒の蚊遣かな
老杣の蚊払ふ団扇ひびきけり
老杣の早寝の蚊帳に蛍かな
山門の日に老鶯のこだまかな
百合たむけて木の間にありぬ山の墓
桑摘や煤にいぶせき家棄てて
檜笠きて頬の若さや山家妻
藍干すに仮の檜笠や山家妻