和歌と俳句

日野草城

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天駆ける一飆ありぬ夏木立

曳き連れてどれも汗馬夏木立

よよ風に日影さざめく夏木かな

大風にはげしく匂ふ新樹かな

星屑や鬱然として夜の新樹

日かげりて風色澄める新樹かな

湧きあがり膨れあがりて新樹かな

雨ながら暁色到る新樹かな

翠緑も夜来の雨の新樹かな

大池の汀の新樹聳えけり

雨意やがて新樹にひそと降りいでし

新緑や松は黝む東山

新緑にいよいよ古き伽藍かな

寂しさや若葉にそそぐ昼の雨

わくらばやぶらぶら病いつまでも

病葉や淫祠なりとて毀たるる

下闇に白くつかへる扇子かな

下闇や目睫に在る煙草の灯

若竹に古竹色を収めけり

古竹參差たりその中の今年竹

朝風や藪の中なる今年竹

ばらりずんと泰山木の花崩る

紫や朝風に散る桐の花

夕栄にこぼるる花やさるすべり

葉先早や燃えて微風の若楓