和歌と俳句

日野草城

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うつせみをとればこぼれぬ松の膚

いとほしや蘆の末葉の子かまきり

玉虫やたたみあまりし薄翅

隠り沼にひそみて飛ばぬかな

瀬がしらに触れて高飛ぶかな

大沼の夜の光や蛍狩

山容も分かぬ闇夜や飛ぶ

篁をつひに出でざるかな

昼蛍神妙にゐる籠の隅

湯上りの人の機嫌や灯取虫

耽読の眉を掠めぬ灯取虫

見てゐるや眠られぬ夜の灯取虫

気の向かぬ縁談にして灯取虫

終列車送りし駅や火取虫

こがねむしばさりと落ちて静かなる

一つ夜深き薔薇に逡巡す

遅々と供華の白蓮渉りけり

添乳寝の忘れ乳なりとまる

いねがてにしてをればにとまらるる

昼深し懶きの花移り

添乳寝のにくはれたる乳房かな

王城さん嵯峨の藪蚊は大きかろ

蚊柱に澄むや夕の東山

を搏つや丁と音して玉の膚

蚊柱に夕空水のごときかな

山蟻に這はるる足のあえかなる