うつせみをとればこぼれぬ松の膚
いとほしや蘆の末葉の子かまきり
玉虫やたたみあまりし薄翅
隠り沼にひそみて飛ばぬ蛍かな
瀬がしらに触れて高飛ぶ蛍かな
大沼の夜の光や蛍狩
山容も分かぬ闇夜や蛍飛ぶ
篁をつひに出でざる蛍かな
昼蛍神妙にゐる籠の隅
湯上りの人の機嫌や灯取虫
耽読の眉を掠めぬ灯取虫
見てゐるや眠られぬ夜の灯取虫
気の向かぬ縁談にして灯取虫
終列車送りし駅や火取虫
こがねむしばさりと落ちて静かなる
蠅一つ夜深き薔薇に逡巡す
蠅遅々と供華の白蓮渉りけり
添乳寝の忘れ乳なり蠅とまる
いねがてにしてをれば蠅にとまらるる
昼深し懶き蠅の花移り
添乳寝の蚊にくはれたる乳房かな
王城さん嵯峨の藪蚊は大きかろ
蚊柱に澄むや夕の東山
蚊を搏つや丁と音して玉の膚
蚊柱に夕空水のごときかな
山蟻に這はるる足のあえかなる