和歌と俳句

高橋淡路女

菖蒲湯や眉落としたく思ひもす

湯を出るや菖蒲かざして母も娘も

海女が住む埴生の小屋も土用干

大芭蕉葉のあをあをと極暑かな

とぶ草にとまりて消えにけり

薄羽織袂に放つほたるかな

あやめ咲く宿に泊りて蛍狩

一片の月影淡しほたる狩

光濃く蛍火水をはなれけり

手につたふ露の雫や蛍籠

生れたる蝉おづおづと歩きけり

露とめて軒のしのぶの廻りけり

来ぬ人を待つに堪へけり吊しのぶ

旅したき思ひそゞろに初袷

鬼灯の朱なつかしや避暑戻り

ひらくより白檀かをるかな

一日のかろき悔ある蚊帳かな

早乙女のふと顔あげぬよき器量

笛の音や泣きみ怒りみ祭獅子

高々と風わたりけり栗の花

黒牡丹ほのかに秘むる臙脂かな

翡翠の飛びたつ色や水の上

母と子のひとつうれひや金魚玉

子とあれば我が世はたのし金魚玉

ふくよかに屍の麗はしき金魚かな