菖蒲湯や眉落としたく思ひもす
湯を出るや菖蒲かざして母も娘も
海女が住む埴生の小屋も土用干
大芭蕉葉のあをあをと極暑かな
とぶ蛍草にとまりて消えにけり
薄羽織袂に放つほたるかな
あやめ咲く宿に泊りて蛍狩
一片の月影淡しほたる狩
光濃く蛍火水をはなれけり
手につたふ露の雫や蛍籠
生れたる蝉おづおづと歩きけり
露とめて軒のしのぶの廻りけり
来ぬ人を待つに堪へけり吊しのぶ
旅したき思ひそゞろに初袷
鬼灯の朱なつかしや避暑戻り
ひらくより白檀かをる扇かな
一日のかろき悔ある蚊帳かな
早乙女のふと顔あげぬよき器量
笛の音や泣きみ怒りみ祭獅子
高々と風わたりけり栗の花
黒牡丹ほのかに秘むる臙脂かな
翡翠の飛びたつ色や水の上
母と子のひとつうれひや金魚玉
子とあれば我が世はたのし金魚玉
ふくよかに屍の麗はしき金魚かな