和歌と俳句

高橋淡路女

梅雨ぐもり写経の硯洗ひけり

空梅雨の草吹く風に蝶白し

籠枕真昼の夢をむさぼりぬ

辻占に顔あからめつ生簀船

風鈴や一と泣きしたる児の機嫌

藪虱つきし片袖旅衣

空蝉を林のみちに拾ひけり

どくだみの花の白さに夜風あり

むかし業平といふ男ありけり燕子花

菖蒲見の袖に止りぬ雨の蝶

子供等に木の高からずゆすらうめ

業平忌おりたつ池に杜若咲く

ひらくより大蛾の来たる月見草

蠱の火の生きて這ひけるかな

蛍火をとり落したる青さかな

蛍火の静かに消ゆる愁ひかな

暮れかぬる花大いなる白牡丹