梅雨ぐもり写経の硯洗ひけり
空梅雨の草吹く風に蝶白し
籠枕真昼の夢をむさぼりぬ
辻占に顔あからめつ生簀船
風鈴や一と泣きしたる児の機嫌
藪虱つきし片袖旅衣
空蝉を林のみちに拾ひけり
どくだみの花の白さに夜風あり
むかし業平といふ男ありけり燕子花
菖蒲見の袖に止りぬ雨の蝶
子供等に木の高からずゆすらうめ
業平忌おりたつ池に杜若咲く
ひらくより大蛾の来たる月見草
蠱の火の生きて這ひける蛍かな
蛍火をとり落したる青さかな
蛍火の静かに消ゆる愁ひかな
暮れかぬる花大いなる白牡丹