和歌と俳句

尾崎放哉

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炉開いてはたと客なき一日かな

花白き春やむかしの夢さむし

鶴を折る間に眠る児や宵の春

の頬の冷たきに寄す我が頬哉

椿咲く島へ三里や浪高し

木犀に人を思ひて徘徊す

だらだらと要領を得ぬ糸瓜

うつむきて、ふくらむ一重桔梗

冷や冷やと見え透く藪や白き蝶

みゝずくの耳を打たれてねる夜かな

新内ヲ門二呼ビケリ宵ノ春

常夏の真赤な二時の陽の底冷ゆる

湖へ強く風吹き暮るゝとんぼとんぼ

葱青々と寒雨つゞくかな

ひねもす曇り浪音の力かな

護岸荒るる波に乏しくなりし花

海が明け居り窓一つ開かれたり

水の音濃くなり行けば赤い灯が

子等と行く足もと浪がころがれり

あかつきの木木をぬらして過ぎし雨

海は黒く眠りをり宿につきたり

花屋のはさみの音朝寝してをる

窓あけて居る朝の女にしじみ売

つと叫びつつ駈け去りし人の真夜中

雪晴れしみち停車場に着く車

つめたく咲き出でし花のその影

大戸あくればひとすぢの朝日つばくら

駈けざまにこけし児が泣かで又駈ける

とはに隔つ棺の釘を打ち終へたり

焼き場の煙突の大いさをあふぐ

若葉の匂の中焼場につきたり

御仏の黄な花に薫りもなくて

今日一日の終りの鐘をききつつあるく

青服の人等帰る日が落ちた町

軍艦のどれもより朝の喇叭が鳴れり

霜ふる音の家が鳴る夜ぞ

妻が留守の障子ぽつりと暮れたり

雪は晴れたる小供等の声に日が当る

眼をやめば片眼淋しく手紙書き居る

赤い房さげて重い車を引く馬よ