和歌と俳句

種田山頭火

前のページ< >次のページ

雪ふりかかる二人のなかのよいことは

雪がふる人を見送る雪がふる

この道しかない春の雪ふる

ふる雪の、すぐ解ける雪のアスフアルトで

かげもいつしよにあるく

けふはここまでの草鞋をぬぐ

椿咲きつづいて落ちつく

うれしいたよりもかなしいたよりも春の雪ふる

けふも木を伐る音がしづかな山のいろ

春の水さかのぼる

笑えば金歯が見える春風

庵はこのまま萌えだした草にまかさう

ふりかへる椿が赤い

わかれて春の夜の長い橋で

木の実すつかり小鳥に食べられて木の芽

こんやはここで涸れてゐる水

春の波の照つたり曇つたりするこころ

菜の花咲いた旅人として

日ざしうららなどこかで大砲が鳴る

枯草あたたかう つもる話なんぼでも

兵営、柳が柳へ芽ぶいてゐる

旅も何となくさびしい花の咲いてゐる

しつとりと降りだして春雨らしい旅で

お寺の銀杏も芽ぐんでしんかん

そこここ播いて食べるほどはある菜葉

水の影あれば春めいて

春寒い朝の水をわたる

なんぼでも荷物のみこぬやうららかな船

島にも家が墓がみえるはるかぜ

銭と銭入と貰つて春風の旅から旅へ

ぽつかり島が、島も春風

島はいただきまで菜ばたけ麦ばたけ

ここが船長室で、シクラメンの赤いの白いの

ふるさとはすつかり葉桜のまぶしさ

やつと戻つてきてうちの水音

わらやしづくするうちにもどつてる

雑草、気永日永に寝てゐませう

いかにぺんぺん草のひよろながく実をむすんだ

藪かげ藪蘭のひらいてはしぼみ

みんな去んでしまへば赤い月

乞ひあるく道がつづいて春めいてきた

藪かげほつと藪蘭の咲いてゐた

木の実ころころつながれてゐる犬へ

まんぢゆう、ふるさとから子が持つてきてくれた

雑草やはつらつとして踏みわける