和歌と俳句

種田山頭火

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たどりきてからたちのはな

何もかも過去となつてしまつた菜の花ざかり

右からも左からもぴよんぴよん

朝ぐもりの草のなかからてふてふひらひら

春雨の夜あけの水音が鳴りだした

朝の雨にぬれながらたがやす

白さは朝のほかりの御飯

水にそうて水をふんで春の水

春の水のあふれるままの草と魚

青空のを掘る

蕗のうまさもふるさとの春ふかうなり

裏からすぐ山へ木の芽草の芽

けふも摘むがなんぼでも

みんな芽ぶいてゐる三日月

春たけた山の水を腹いつぱい

けさも掘る音の持つてきてくれた

送電塔が山から山へかすむ

春がゆくヱンジンが空腹へひびく

春はうつろな胃袋を持ちあるく

をつみ蕗をたべ今日がすんだ

菜の花よかくれんぼしたこともあつたよ

死ぬよりほかない山がかすんでゐる

それでも腹いつぱいの麦飯が畑うつ

みんな嘘にして春は逃げてしまつた

楢の葉の若葉の雨となつてゐる

月の落ちる方へあるく

柿若葉、あれはきつつきのめをと

まこと雨ふるの伸びやう

さいてはちつてはきんぽうげのちかみち

竹の子のたくましさの竹になりつつ

みよきによきならんで筍筍

なんとよいお日和の筍もらつた

山は若葉の、そのなかの広告文字

ほしものほどようほせた藤の花

影は若葉で柿の若葉

ぢつとしてたんぽぽのちる

夏山のせまりくる水をくみあげる

月あかりの筍がつちり

蕗の葉の大きさや月かげいつぱい

村はおまつり、家から家へ、若葉のくもり

蕗の葉のまんなかまさしく青蛙

若葉、高圧線がはしる

若葉しづもりまんまるい月が

ゆふべひとときはさびしい若葉

生きられるだけは生きやう草萌ゆる

どうにもんらない矛盾が炎天

のぼりつめたる蟻の青空

雀したしや若葉のひかりも

若葉はればれと雀の親子

いちにち石をきざむや葉ざくらのかげ