和歌と俳句

山口誓子

凍港

山焼きや賽の河原へ火のびたり

くらがりや寒の障子のひびらげる

探梅や遠き昔の汽車にのり

雪原の萱離々たりやスキー行

紅梅に馬酔木も咲きて神の城

畑打や池田の鯉を手捕つたり

早蕨や裾田ひかりてよき日和

夜桜や港の船の見ゆる園

花更けて北斗の杓の俯伏せる

水暮れて海の鳥来る菖蒲園

轍あと深くかげりぬ誘蛾燈

匙なめて童たのしくも夏氷

閻王のまえに昼寝の床几在り

水桶と昼寝の舸子と簾かげ

日蔽やキネマの衛鬱然と

七月の青嶺まぢかく溶鉱炉

田植牛またたきしげく篠の雨

磔像泰山木は花終んぬ

夕焼けて磔刑の主あり花圃の中

明方や宿の蚊帳天主堂

朝焼や聖マリヤの鐘かすみ

露の花圃天主を祈るもの来たる

釘うてる天主の手足露の花圃

露の花圃神父童に語ります

主の前の日焼童に聖寵あれ

旅びとや夏ゆふぐれの主に見ゆ

燈籠に醜老の顔照さるゝ

夜涼かな酔眼に甲比丹遊興図

峡港や女坑夫の游ぐなる