不士見野のちぐさの秋を雲とぢて雨寒かりしゆふべなりけり
不士見野を汽車の煙の朝なづみ我が裳裾辺の花は露けく
不士見野はまだ霧居れど八つが岳の雲開き来て花見え渡る
湯田中の河原に立ちて飯綱峰や妙高の山くろひめのやま
黒姫は越のこひしき鯖石の我が思ふ人の郷の上の山
北信濃にとはに燃立つ浅間山秋の蒼ぞらにけぶりなづめり
かすかなる息のかよひも無くなりてむくろ悲しく永劫の寂まり
春寒の小夜の火桶を灰掻きつつ胸のおくがに汝が見ゆるかも
うらかなしくとはに眠れるそのみ目を今ひとたびと覆の衣取り
おもかげや神と尊くにほへりし淡しきみ目をとはに偲ばむ
おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く
秋草のしどろが端にものものしく生きを栄ゆるつはぶきの花
今朝のあさの露ひやびやと秋草や総べて幽けき寂滅の光
あたら世の年の名にそへる偉人出でよと嘆く民の声々
国民の多数の人の乞ひ望む事顧ず何をするかも
国民の嘆をよそに国のため君の為めよといふ族多かり
我がこもる窓の外のべにととと呼ぶをさなきふたり且つ相かたる
黒髪のうなゐふたりが丹のおものまろき揃へて笑みかたまけぬ
幼児をふたりはぐくむ我がさちをつくづくと思ふともかうみして
みぎひだり背に寄りつくを負い並めて笑ひあふるる真昼の家に
いとけなくめづしき児等が丹のおもの輝くいまを貧しといはめや
七人の児等が遊びに出でて居ずおくに我れ一人瓶の山茶花