和歌と俳句

伊藤左千夫

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不士見野のちぐさの秋を雲とぢて雨寒かりしゆふべなりけり

不士見野を汽車の煙の朝なづみ我が裳裾辺の花は露けく

不士見野はまだ霧居れど八つが岳の雲開き来て花見え渡る

湯田中の河原に立ちて飯綱峰や妙高の山くろひめのやま

黒姫は越のこひしき鯖石の我が思ふ人の郷の上の山

北信濃にとはに燃立つ浅間山秋の蒼ぞらにけぶりなづめり

かすかなる息のかよひも無くなりてむくろ悲しく永劫の寂まり

春寒の小夜の火桶を灰掻きつつ胸のおくがに汝が見ゆるかも

うらかなしくとはに眠れるそのみ目を今ひとたびと覆の衣取り

おもかげや神と尊くにほへりし淡しきみ目をとはに偲ばむ

おりたちて今朝の寒さを驚きぬ露しとしとと柿の落葉深く

秋草のしどろが端にものものしく生きを栄ゆるつはぶきの花

今朝のあさのひやびやと秋草や総べて幽けき寂滅の光

あたら世の年の名にそへる偉人出でよと嘆く民の声々

国民の多数の人の乞ひ望む事顧ず何をするかも

国民の嘆をよそに国のため君の為めよといふ族多かり

我がこもる窓の外のべにととと呼ぶをさなきふたり且つ相かたる

黒髪のうなゐふたりが丹のおものまろき揃へて笑みかたまけぬ

幼児をふたりはぐくむ我がさちをつくづくと思ふともかうみして

みぎひだり背に寄りつくを負い並めて笑ひあふるる真昼の家に

いとけなくめづしき児等が丹のおもの輝くいまを貧しといはめや

七人の児等が遊びに出でて居ずおくに我れ一人瓶の山茶花