木下利玄

鎌倉の山あひ日だまり冬ぬくみ摘むにゆたけき七草なづな

なづななづな切抜き模様を地に敷きてまだき春ありここのところに

室の内に瓶の梅の花にほひみち午後あたたかに天気くもれる

夕日かげ物になじめりまさしくも甦りたる春のしるしに

くれなゐの牡丹花深みおのづからこもれる光澤の見るほどぞ濃き

瓶にさす白芍薬に蟻つけり季節の花のこの鮮らしさ

瓶にさす芍薬の花茎長にかたむきかかりて此方に薫る

鮮らしきばらの剪花朝園の鋏の音をきくここちする

遠き森を夕陽染めをり初秋の村かげり冷えて煙這ひつつ

何処よりか烟にほひて初秋の夕ぐれかへる道にひもじき

裏山の青萱ぬけいで咲く百合の涼風のむた大きくゆらげり

うら山の青葉低枝と背高百合ゆれちかづきをり風すがやかに

朝涼しみ朝顔の花のいろよさのあなみづみづし一輪一輪

朝涼の静けさに見る目の前の瑠璃あさ顔の輪の大きさ

秋暮れて今年もさむし午后はやく日かげる庭の白菊の光り

葉より葉へつたふ雫の音久しく軒端ひそけき昼間の時雨

柿もみじ濡れいろあかく時雨すぎ山家の背戸は又日和なる

曼珠沙華咲く野の日暮れは何かなしに狐が出るとおもふ大人の今も

繊月の乏しき光鉢前の山茶花の花に或ひは宿れる

冬庭は落葉の後をおちつきてすがしく目に立つ水仙の青

嗽ぐ寺の壺庭苔ふかみ萬両の實の赤さもあかき

大和路へ冬入り来りこの朝け寺にありてみる庭の萬両

山畑に満開すぎし梅の花黄ばみ目に立つ夕靄ごもり

満開の淡紅色山茶花かつこぼれ芝生匂へる花びらの藪

紅葉の重なりふかみ夕日かげ透りなすみて紅よりも紅

和歌と俳句