日野草城
波を蹴て駛る残暑の白ランチ
秋暑し古びつくせる旧校舎
目もあやに残暑のテープうちみだれ
別れきし身に大阪の残暑かな
新涼や女に習ふマンドリン
新涼や種茄子日々の捨て太り
新涼や繊き手摺にもたれけり
新涼や生姜すり込む濃甘酒
新涼や目覚煙草の煙の色
新涼や寝くたれ髪に日の光
新涼の釣瓶漏りつつ上り来る
爽かに山近寄せよ遠眼鏡
爽かや木蔭暗みの竹の幹
おだやかな二百十日や鶏の声
妹痩せて痩せて今年の秋深し
秋深き大和に雨を聴く夜かな
甃甎に青瓦砕けて秋深し
秋冷の瀬音いよいよ響きけり
秋冷喉にあり繊きあごを引く
冷やかや畳に触れぬつちふまず
時鐘一点球灯冷えて真くれなゐ