憎からぬ音をも立てて二月のあられ打つなり青桐の幹
雨雲の墨を流せる空の色さむからずして紅梅の散る
春の昼梯子の口に手を打てばこだまするなり桃色の壁
わが家の石の浴槽に浅みどり柳の枝のうつる春かな
一生はさんたまりやの絵のやうに金粉をもてぬられずもがな
わが歌は皐月におつる雹ならん時をわすれてさむき音かな
水だまりおもちやの赤き金魚浮き雨がへる飛び日の暮れて行く
けふの世に歩み入りける日の初めかすかに見ゆるひなげしの花
君と行く四谷見附の土手の草尺ほどとなり小糠雨ふる
草踏みて草履のしめるここちさへ嬉しき夏となりにけるかな
夏木立青きが上に夕雲のいく色となく下る遠かた
筆置きて夕立降れば見に出でぬ四谷の濠に並ぶ柳を
あかつきや川にもまさり清らなる草の中なる白き道かな
噴水の白き石見て秋来ぬと都の少女うちもおどろく
うつくしと白き衣の肱ほめぬわが妹は姉をあがめて
うつくしき素足の冬の来りけりちらほらと咲く水仙の花
初秋の板の廊下を歩む時山のあはひを行くここちしぬ
ひとり居に秋風吹けば悲しかり濃きくれなゐの窓掛のはし
みだらにも鶏頭の花土に咲き白犬眠り秋の風吹く
桐の葉と松の間に秋の空少し見出でて胸騒ぐかな
夕ぐれの砂の上をば小走りに秋の風行く静心なし
秋くれば手に拾ひたる小石にも遠きいのちのあるここちする
二つほど夏の衣を重ね著て秋来と語るうれしきここち
桐の葉を散るに先だち朽ちさせぬいとわりなしや秋の長雨
秋の日のうす桃いろにかぎろへば赤とんぼとぶ白き蝶とぶ