澄める水ほのほ浮けたりこれや何ロダンの作る男と女
ありふれし恋ざめよりも哀れなり街の祭のあくる日の風
秋風は凱旋門をわらひにか泣きにか来る八つの辻より
かへりみぬシヤンゼリゼエのうづだかき並木の持てる葡萄色の秋
松の幹泣ける女の目の色すその島かこむ初秋の水
しぐれきぬ肱掛椅子の十歩まへ赤き花匍ふアカシヤの木に
秋の日の泉の波を染め分けぬ雨と風とが青と白とに
ももいろと臙脂の輪をば花草の置きたる庭も秋の雨ふる
海に似る森をはなれて白楊のまばらに立てる秋の野に出づ
楼に見るセエヌの底の秋の空わがうれひより冷たかりけれ
曲りたる石のきざはし秋風のよろめきて吹く石のきざはし
いにしへの君王の閨金色の枕にかよふ秋の初かぜ
年の名も王達の名も忘れずにいふ殿守の寒き声かな
そのかみの后の調度うす紅に光れる殿の窓あかりかな
下草にうす桃色のかげ引きぬ白樺の木とわれの姿と
欧羅巴の光の中を行きながら飽くこと知らで泣く女われ
其処此処に紅葉の枝を隠したる木深き森の秋のたはぶれ
さびしげに海に浮べりわが心エトナの火をば猶いだけども
仏蘭西に君をのこして我が船の出づる港の秋の灰色
ふるさとの和泉の山を内海の霧の中よりのぞくあけがた
マルセエユいとあわてたるここちして相乗したるいやはての馬車
しろがねの甕にささんわが愁銀杏の色の三十路の愁
今さらに我れくやしくも七人の子の母として品のさだまる
身は痩せぬしら刃の如き別離をばわがおもひ出の中に見るたび