松過ぎや街はるばると葬車駆る
深山空寒明けし陽のわたりけり
お彼岸の鐘ききとむる樵夫かな
野祠やかげろふ上る二三尺
墓山のかげろう中に詣でけり
真澄なる苗田の水に鎌研げる
われを視る眼水色に今年猫
黝汐にのりて春趁ふ鴎かな
覇王樹に卯の刻雨す五月かな
菖蒲ひく賤の子すでに乙女さび
遊船に陽は青々と灼けにけり
麦穂焼炎のはやりては舞ひにけり
冷え冷えと箸とる盆の酒肴かな
魂棚や草葉をひたす皿の水
うつくしく泉毒なる蛍かな
青草をいつぱいつめしほたる籠
葛垂れて日あたる漣の水すまし
葉がくれに水蜜桃の臙脂かな
閑かさはあきつのくぐる樹叢かな
音のして夜風のこぼす零餘子かな
仰がるる鳶の破れ羽や秋の風
汽關車に雲や鴉や秋の山
草もなく嶽のむら立つ狭霧かな
窈窕と吾妹はゆけり歳の市
月読の炎をわたりゐる大火かな
火事鎮むゆらめきありて鼻のさき
うきにたへよむ書のにほふ暮春かな
騎馬兵にさくらほころぶ大嵐
ほたる火に憂色ありてうごきけり
凍港の歛まる雲や初御空
船客の子が麗貌のてまりかな
山深く芽を掻く籠や春の昼
春深し寺領の棕櫚は古葉垂る
山の春神々雲をしろうしぬ
さるはしに風雨の旅も弥生かな
雨土の落英ふみて御忌の路
風吹いて山地のかすむ雲雀かな
黒繻子に緋鹿子合はす暮春かな
貧農は弥陀にすがりて韮摘める
虎杖に樋の水はやし雨の中
さきがけて蕗咲く渓の谺かな
歩み去りあゆみとどまる夜の蟹
巌苔も湿りて芽咲く雑木かな
花咲いてすずろに木瓜の雫かな
渓声に山吹芽ぐむ雑木原
虹たちて白桃の芽の萌えにけり
雲霧にこずゑは見えず遅ざくら
自画像に月くもりなき窗の夏
暑き日の鉱山見ゆる不浄門
避暑の娘を大濤高う搖りにけり
単衣着の襟の青磁にこころあり
うす箋に愁ひもつづり夏見舞
風鈴屋老の弱腰たてにけり
富士垢離のほそぼそたつる煙りかな
風吹いて古墳の土の蜥蜴かな
水替へて鉛のごとし金魚玉
深窗に孔雀色なる金魚玉
鉄塔下茄子朝焼けに咲きそめぬ
浮きくさを揚げたる土の日影かな