和歌と俳句

会津八一

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おにひとつ行者のひざをぬけいでてあられうつらむふたがみの里

あしびきの山のはざまのいはかどのつららに似たるきみがあごひげ

やまとより吹きくるかぜをよもすがら山のこぬれにききあかしつつ

さきだちて僧がささぐるともし火にくしきほとけのまゆあらはなり

なまめきてひざにたてたるしろたへのほとけのひぢはうつつともなし

くろ駒のあさのあがきにふませたるをかのくさねとなづみぞわがこし

世をそしるまづしき僧のまもり来しこのくさむらのしろきいしずゑ

耳しふとぬかづくひとも三輪やまのこのあきかぜをきかざらめやも

ささやかに丹ぬりの塔のたちすます木のまにあそぶ山さとの子等

みほとけの肱まろらなるやははだのあせむすまでにしげる山かな

やまとぢの瑠璃のみそらにたつくもはいづれのてらのうへにかもあらむ

わさだかるおとめがとものかかふりの白きをみつつみち奈良にいる

をしかなくふるきみやこのさむき夜をいへはおもはずいにしへおもふに

なら山のしたはのくぬぎいろにいでてふるへのさとをおもひぞわがする

あかき日のかたむくのらのいやはてのならのみてらのかべのゑをおもへ

のこりなくてらゆきめぐれかぜふきてふるきみやこはさむくありとも

ならさかを浄瑠璃でらにこえむ日はみちの真埴にあしあやまちそ

ならやまをさかりし日よりあさにけにみてらみほとけおもかげに立つ

みすずかるしなののはてのむらやまのみねふきわたるみなつきのかぜ

かぎりなきみそらのはてをゆく雲のいかにかなしきこころなるらむ

おしなべてさぎりこめたるおほぞらになほたちのぼるあかつきのくも

あさあけのをのへをいでし白くものいづれのそらにゆきかくれけむ

くもひとつみねをめぐりて湯のむらのはるるひまなきわがこころかな

いにしへのヘラスのくにのおほ神をあふぐがごときくものまはしら

あをそらのひるのうつつにあらはれてわれに答へよいにしへのかみ