和歌と俳句

会津八一

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みよしののむだのかはべのあゆすしのしほくちひびくはるのさむき

はるあさきやまのはしゐのさむしろにむかひのみねのかげのよりくる

あまごもるやどのひさしにひとりきててまりつく子のこゑのさやけさ

ふるみやのまだしきはなのしたくさのをばながうれにあめふりやまず

かぐやまのかみのひもろぎいつしかにまつのはやしとあれにけむかも

かぐやまのこまつかりふせむぎまくとをのうつひとのあせのかがやき

はるの野のことしげみかもやまかげのくはのもとどりとかずへにつつ

ちはやぶるうねびかみやまあかあかとつちのはだみゆまつのこのまに

くさふめばくさにかくるるいしずゑのくつのはくしやにひびくさびしさ

やまでらのさむきくりやのともしびにゆげたちしらむいものかゆかな

あめそそぐやまのみてらにゆくりなくあひたてまつるやましなのみこ

ちよろづのかみのいむとふおほてらをおしてたてけむこのむらのへに

たなごころうたたつめたきガラスどのくだらぼとけにたちつくすかな

あせたるをひとはよしとふ頻婆果のほとけのくちはもゆべきものを

ガラスどにならぶ四はうのみほとけのひざにたぐひてわがかげはゆく

のちのよのひとのそへたるころもでをおもげにたたす四てんわうかな

かすがののしかふすくさのかたよりにわがこふらくはとほつよのひと

かすがののよをさむみかもさをしかのまちのちまたをなきわたりゆく

あまごもるならのやどりにおそひきてさけくみかはすふるきともかな

みわたせばきづのかはらのしろたへにかがやくまでにはるたけにけり

のびやかにみちによこたふこのいはのひとにしあれやわれをろがまむ

かたむきてうちねむりゆくあきのよのゆめにもたたずわがほとけたち

あさひさすいなだのはてのしろかべにひとむらもみぢもえまさるみゆ

みかぐらのまひのいとまをたちいでてもみぢにあそぶわかみやのこら

やまゆけばもずなきさわぎむさしののにはべにあしたおもひいでつも