和歌と俳句

会津八一

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ゆめどのはしづかなるかなものもひにこもりていまもましますがごと

義疏のふでたまたまおきてゆふかげにふみならしけむこれのふるには

とほつよのみくらいできてくるるひをまつのこぬれにうちあふぐかな

しかなきてかかるさびしきゆふべともしらでひともすならのまちびと

しかなきてならはさびしとしるひともわがもふごとくしるといはめやも

おとなへば僧たちいでておぼろげにわれをむかふるいしだたみかな

あさひさすしろきみかげのきだはしをさきてうづむるけいとうのはな

だいひかくうつらうつらにのぼりきておかのかなたのみやこをぞみる

せきばくとひはせうだいのこんだうののきのくまよりくれわたりゆく

あまぎらしまだきもくるるせうだいのにはのまさごをひとりふむかな

よもすがら戒會のかねのひびきよるふるきみやこのはたのくさむら

のきひくきさかのみだうにひとむれてにはのまさごにもるるともしび

うつろひしみだうにたちてぬばたまのいしのひとみのなにをかもみる

かいだんのまひるのやみにたちつれてふるきみかどのゆめをこそまもれ

維摩居士むねもあらはにくむあしのややにゆるびしすがたこそよけれ

あきのひは義淵がふかきまなぶたにさしかたむけりひとのたえまを

かべにゐてゆかゆくひとにたかぶれるぎがくのめんのはなふりにけり

いかでわれこれらの面にたぐひゐてちとせののちのよをあざけらむ

をとめらはかかるさびしきあきののをゑみかたまけてものがたりゆく

をとめらがものがたりゆくののはてにみるによろしきてらのしろかべ

うつくしきひともこもれりむさしののおくかもしらずあらしふくらし

あをによしならやまこえてさかるともゆめにしみえこわかくさのやま

ふるてらのみだうのやみにこもりゐてもだせるこころひとなとひそね