和歌と俳句

会津八一

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このごろのよるのながきにはにねりてむらのおきながつくらせるさる

かはら焼くおきながみせのさむしろのかぜにふかるるさにぬりのさる

さるの皇子茶みせのたなにうま並めてあしたのかりにいまたたすらし

たちならぶ墓のかなたのうなばらをほぶねゆきかふひごのはまむら

菊ううとおりたつにはのこのまゆもたまたまとほきうぐひすのこゑ

きくううとつちにまみれてさにはべにわれたちくらす人なとひそね

はなすぎてのびつくしたるすゐせんのほそ葉みだれてあめそそぐみゆ

かすみ立つをちかたのべのわかくさのしら根しぬぎてしみづわくらし

しらゆりの葉わけのつぼみいちじろくみゆべくなりぬあさにひにけに

野のとりのにはのをささにかよひきてあさるあのとのかそけくもあるか

ゆくはるのかぜをときじみかしのねのつちにみだれてちるわかばかな

まめううるはたのくろつちこのごろのあめをふくみてあをまちにけむ

いりひさすはたけのくろに豆ううとつちおしならす手のひらのおと

あめはれしきりのしたはにぬれそぼつあしたのかどのつきみさうかな

うまのるとわがたちいづるあかときのつゆにぬれたるからたちのかき

あきづけばまたさきいでしうらにはのくさにこぼるるやまぶきのはな

水かれしはちすのはちにつゆくさのはなさきいでぬあきはきぬらし

おこたりて草になりゆくひろにはのいりひまだらにむしのねぞする

しげりたつかしのこのまのあを空をながるるくものやむときもなし

わがかどのあれたるはたをゑがかむとふたりのゑかきくさに立つみゆ

むさしののくさにとばしるむらさめのいやしくしくにくるるあきかな